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2022/01/21

組織の記憶力

昨年3月から始まった本メルマガですが、実は、
始めた当初は、ネタ探しから始まり、全体構成、
内容、タイトルの検討等々、色々と試行錯誤し
ながら、かなりの時間を使っていました。しかし、
回を重ねる毎に、だんだんと要領を覚え、当初
費やした半分くらいの時間で完成することが出来
ています。
 
このメルマガの例に限らず、人は同じ作業を
繰り返すことで、その経験から学習して効率を
上げていきます。経験を蓄積すればするほど、
生産性が上がっていく関係のことを経営学では、
ラーニング・カーブと言います。
 
このラーニング・カーブ、仕事や趣味、スポーツ
などでみなさん経験されていると思いますが、
個人の集合体である「組織」にも存在するので
しょうか。これについては、様々な経営学者が
研究を重ね、組織にもラーニング・カーブが存在
していることが実証されています。つまり組織でも
個々のメンバーが経験値を増やすことで、チーム
としての効率が上がるということです。
 
ただ、この組織のラーニング・カーブは、組織に
よって上がり方が違うことも分かってきています。
そうなると、
“どのような組織がより効率的に学習するのか?”
という部分が気になるのではないでしょうか。
それに大きく影響を与える要素の一つとして
「組織の記憶力」というものがあります。
この「組織の記憶力」というのは、仕事における
記憶の総量を指すものではありません。
組織内で、
“誰が何を知っているかという記憶(情報)”
が「組織の記憶力」になります。これが、組織内で
正確に蓄積・共有されることで、ラーニング・
カーブの上昇を助けることになります。
つまり、組織内の一人ひとりのメンバーが、
「あのことだったら、あの人に聞けば良い」
ということが分かり、直ぐにその専門性に
アクセスできる状態にあることが、組織の効率性
において大切になってくるということです。
 
組織が機能分化し、総務、人事、営業と分かれ、
そして、人事の中でも、人財開発、労務、採用と
課単位で名称・機能が分かれていることは、
「組織の記憶力」を維持する上で大切ですし、
技術系の部署であれば、個々の技術者の専門
が分るスキルマップもその助けになるでしょう。
 
ただ、この「組織の記憶力」、気を付けなければ
いけないこともあります。
組織で仕事を続けていくと、ある程度、誰にどの
知識があるか、ということが分ってきますが、組織
が大きくなったり、上司・部下のコミュニケーション
が希薄になると、それが正確に把握されなくなり
ます。そして「組織の記憶」が誤っている状態で、
仕事を割り振ってしまうと、組織全体のモチベー
ションや生産性を下げてしまうことがあります。
 
例えばこんなケースがあるのではないでしょうか。
ある営業チームで新たにSNSを積極活用した
マーケティング戦略を考えることになりました。
しかし、マネージャーがメンバーの特長を把握
しておらず、デジタルマーケティングにとても
詳しいAさんという存在いるにも関わらず、あまり
詳しくないBさんに担当を任せてしまいました
Aさんは、
「Bさんより私の方が詳しいのになぜ?」
と思うでしょうし、
Bさんは、
「他の仕事で忙しいのになあ、面倒だな~」
と思うかもしれません。多かれ少なかれ、二人に
ネガティブな感情を抱かせてしまい、実際の仕事
や連携も上手く進まなくなるかもしれません。
 
また、組織単位でもそういうことが起こり得ます。
ある会社の営業部署で、既存顧客だけでなく、
新規の顧客開拓も積極的に進め、売上拡大を
目指していました。努力の甲斐もあり、新規への
取り組みが徐々に花開き、ノウハウも蓄積され
つつあった矢先、トップダウンで新しい新規開拓
の部署が新設されました。こうなると営業部署の
メンバーは自分達だけでは頼りないのかと思って
しまい、モチベーションを落としてしまいます。
新設部署のメンバーにとっても、営業部との軋轢
が生まれ、連携が難しくなったりもします。
 
経営者や管理者は、組織や人が持つ専門性に
ついて、アップデートしながら最新の状態にして
おく必要があります。また、会社にとって将来
必要になるスキル・知識についても、それを
誰が持っているか、ということについてアンテナ
を張っておくべきでしょう。その上で、関係者と
コミュニケーションを取って、アサイメントを行
っていくことが求められるではないでしょうか。
 
昨今の人事・雇用管理の方向性として、ジョブ型
というものが取り沙汰されています。
ジョブ型とは、企業に必要な職務内容をあらかじ
め詳細に定義し、最適な人財を外部・内部から
配置していく仕組みです。そして、ジョブ型では、
メンバーシップ採用や職能資格制度では、詳細
なものを必要とされなかった、
“職務内容をどのように定義していくか”
という部分にポイントが集まりがちになります。
勿論、それも大切だと思うのですが、それと同様
いや、もしかしたらそれ以上に重要なのが、
誰が何を知っているかという「組織の記憶力」に
なると思います。この記憶をいかに質の高い状態
で整備して置くかによって、ジョブ型の人事制度
の成否が決まると言っても良いかもしれません。
 
この「記憶」が曖昧なまま、ジョブ型を運用して
しまうと、いくら職務記述書を完璧に整備しても、
今の社員で担当できるはずのポストを外部採用
してしまったり、先ほどの例で挙げたような誤った
アサイメントを行い、組織内に軋轢を起こして
しまうことにもなりかねません。
 
ジョブ型の広がりと相まって、「組織の記憶力」の
アップデートに如何に取り組んでいくか、今まで
以上にエネルギーを注ぐべき部分になってくる
かもしれません。
 
参考文献:『世界の経営者はいま何を考えて
いるのか』(第五章)入山章栄(英治出版)
 

 
 


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